液晶材料や共役高分子の側鎖は、側鎖の熱運動による溶媒への溶解性の増大に加えて、側鎖同士の相互作用による機能ユニットの自己組織化に重要な役割を果たしており、通常は直鎖のアルキル鎖が使用される。我々は直鎖オリゴシロキサン鎖を導入したペリレンビスイミド誘導体の合成を進めるうちに、環状のシクロテトラシロキサン環を導入したペリレンビスイミドも液晶相を示す事を見出した(図1(a))。化合物3は昇温・冷却過程でカラムナー相を示し、室温以下に冷却しても結晶化しない。電子移動度も0.1 cm2/Vsに達する。バルキーなシクロテトラシロキサン部位を有するにもかかわらず、液晶相においては、π共役系は密に凝集し、高い電子輸送性を示すものと考えられる。 これらの化合物は有機溶媒に対して高い溶解性を示し、スピンコート法やキャスト法により薄膜を作製する事ができる。さらに、薄膜を70℃でトリフルオロメタンスルホン酸蒸気に暴露する事により、カラムナー相の凝集構造を保持したまま、開環重合が進行するため、薄膜を不溶化できる(図1(b))。 |
図1(a) 側鎖にシクロテトラシロキサン環を有する液晶性ペリレンビスイミド誘導体の分子構造と相転移温度 (b) in situ 重合の模式図 |
生物ではイオンが動くことにより情報が処理されている。液晶分子にイオン性の部位とπ電子共役系を組み込むと、両者がナノ相分離した超構造が形成され、イオンと電子を独立して伝導できる液晶性混合伝導体を作製する事ができる(図2(a))。化合物4は室温でラメラ相を示し、電子移動度は10-4 cm2/Vsであった。液晶相において、LiOTfを3 mol%複合化できる。LiOTfを複合化しても電子輸送性は損なわれなかった。 混合伝導体薄膜を電気化学デバイスに使用する場合には、電解質溶液と薄膜が接触するため、薄膜の不溶化が不可欠である。そこで、側鎖末端にシクロテトラシロキサン環を導入した化合物4を合成した(図2(b))。個の化合物は室温で液晶相を示し、溶液プロセスにより薄膜化が可能である。電子不足な電子共役系が存在するため、良好な電子輸送性を示す。トリエチレンオキシド鎖が金属イオンに配位するため、金属イオンとの複合化が可能である。側鎖末端に導入した環状シロキサンは熱運動により薄膜に柔軟性を付与すると同時に、ミクロ相分離によるナノ構造の形成を促進する。また、酸蒸気暴露により開環重合が進行するため、薄膜状態で重合でき、薄膜の不溶化が可能である。 液晶相においては、電子輸送性のπ共役スタックと、イオン伝導層がナノメータースケールでカラム凝集体内に集積されているため、作製した薄膜は電子伝導性と同時にイオン透過性も有する。重合した薄膜は電解質溶液中でエレクトロクロミズムを示す。また、一軸配向した薄膜は、還元剤水溶液に浸すことによりドーピング可能であり、異方的な電気伝導性を示す。導電率は1x10-3 Scm-1に達し、異方性は重合前で100、重合後も10を超える(図2(b))。 |
図2 (a) 化合物3の凝集構造とLiOTf混合物のDSCカーブ (b) 化合物4の液晶相での分子凝集構造と異方的電気伝導性、および、エレクトロクロミズム |
本研究は、日本液晶学会論文賞A(2014年)の授賞対象となった。 本研究は、文部科学省科学研究費「元素ブロック高分子」に採択された。 本研究は、高分子学会広報委員会パブリシティー賞を受賞した。 |
参考文献
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