香川大学 小野研究室

- Takafumi Ono's Laboratory -

研究室発足以前の研究

モチベーション

量子光学では、光は場の性質を持つと同時に粒子の性質も持つと理解されています。これまで、 光の場と粒子の性質が、どのように関係づけられているのか、という点に興味を持って研究活動を 行ってきました。

これまで、量子光学(量子情報処理)という枠組みの中で、「理論」、「バルク系光学実験」、「光集積回路実験」 という3つの大きく異なる手法を使って研究活動を行ってきました。 広島大学(博士課程)では量子計測に関する理論研究を、北海道大学(博士研究員)では バルクの光学系を用いた量子計測に関する実験研究を、英国ブリストル大学(博士研究員)では 光集積回路を用いた量子シリコンフォトニクスに関する実験研究を行ってきました。

「巨視的な」量子重ね合わせ状態の生成

本研究では、レーザー光とスクイーズド光の量子干渉効果を光子の観点から理論的に解析し、 巨視的な量子重ね合わせ状態が生成できることを発見しました。

「巨視的な」量子重ね合わせ状態は、古典限界を超える感度での量子計測や、多粒子系の 量子もつれの性質の解明といった、基礎から応用までの幅広い分野で研究の対象となっています。 しかしながら、これまでスケーラブルな「巨視的な」量子重ね合わせ状態を生成する実験方法は分かって いませんでした。

光を量子論的に取り扱う手法には、光を「場」として取り扱う手法(連続変数)と、光を「粒子」として 取り扱う手法(離散変数)の、2つがあります。これまで、レーザー光とスクイーズド光の干渉効果は 連続変数を使う手法が主流でした。本研究では、レーザー光とスクイーズド光の干渉効果を、 離散変数である光子の観点から解析、さらに2つの光強度が等しい時に、「巨視的な」量子重ね合わせ 状態が生成できることを発見しました。

本成果は、イスラエルのグループらによって5つの光子を使って実験で実証され(Science 328 879-881 )、Science誌で取り上げられました(Science 328 835-836)。

[1] PHYSICAL REVIEW A 76(3) 031806 2007年9月
[2] JOURNAL OF PHYSICS B 41(9) 2008年5月
[3] PHYSICAL REVIEW A 81(3) 033819 2010年3月

※本研究は、小野が、広島大学大学院先端物質科学研究科Holger F. Hofmann教授指導の下で行った研究です。

図1 : 巨視的量子もつれ状態生成方法

量子もつれ顕微鏡

本研究では、「量子もつれ光子」を「顕微鏡」へ組み込んだ、量子もつれ顕微鏡を開発することに世界で初めて成功しました。

「量子もつれ光子」とは、古典力学的な描像では理解することのできない、不思議な性質を持った光子です。 この「量子もつれ光子」を「計測」へ応用すると、あらゆる古典光を用いても達成することができない (標準量子限界を超える)感度で、物を測ることが可能となります。

光学顕微鏡の中でも、微分干渉顕微鏡は干渉分光の原理を利用しており、透過光観察では見えない非染色な 試料を観察することができます。しかし、これまで微分干渉計の測定感度は、標準量子限界で決まっていました。

本研究では、量子もつれ光子を利用した量子計測の手法を、微分干渉顕微鏡の観察へ適用し、 標準量子限界を超える感度を持つ「量子もつれ顕微鏡」を実現することに世界で初めて成功しました。 さらに、実装した顕微鏡を使って、高さ約17nmの段差を持つガラス基板を可視化した結果、通常の顕微鏡よりも 約1.35倍高いSN比で観察することに成功しました。

[1] Nature Communications 4(2426) 2013年

※ 本研究は、小野が、北海道大学(現京都大学大学院工学研究科)竹内繁樹研究室で行った研究です。

図1 : 量子もつれ顕微鏡の概略図

光学スピンスクイーズド状態

本研究では、5つの光子が量子力学的にもつれ合った、「光学スピンスクイーズド状態」を実験で生成することに成功しました。 さらにこの量子状態を、光位相計測のプローブとして利用することで、標準量子限界を超える感度で、光位相を同定することに 成功しました。

量子もつれ光子は、光のゆらぎの性質が古典光とは異なります。このゆらぎの性質をうまく制御し、利用することで、 レーザーなどの古典光よりも高い感度で、対象物の特性を計測が可能となります。

本研究では、非線形光学結晶で生じるパラメトリック過程を利用して、6つの光子を生成、さらにそこから1光子を抽出することで、 人工的に量子ゆらぎを付加・制御しました。また、生成した「光学スピンスクイーズド状態」を使って、光の位相差を計測した結果、 通常の古典光を用いた場合に比べて、約1.34倍高い精度で光の位相差を同定することに成功しました。

本研究により、古典限界を超える感度での量子計測のさらなる発展や、多粒子系の量子もつれの性質の解明といった、 基礎から応用までの幅広い研究分野での進展が期待されます。

[1] NEW JOURNAL OF PHYSICS 19 053005 2017年5月

※ 本研究は、小野が、英国ブリストル大学 Jeremy O’Brien教授の下で、行った研究です。

図1 : 光学スピンスクイーズド状態を生成した実験系