香川大学 小野研究室

- Takafumi Ono's Laboratory -

研究内容

モチベーション

光集積回路は、大規模な光デバイスを実現するためのプラットフォームとして期待されています。 中でもシリコンを利用した光集積回路は、集積密度が高いこと、洗練された製作技術があること、 また通信波長帯域の光やCMOS技術との相性が良いといった利点があります。このような理由から、 光量子情報処理の分野においても、シリコン光集積回路は量子情報処理を実装するためのプラット フォームとして期待されています。

本研究室では、これまで培われてきたシリコンフォトニクス技術を駆使した光集積回路作製技術を 使って、光の量子状態を高度に制御、さらにそれを計算や計測へ応用する研究に取り組んでいます。 具体的には,非線形な光学効果を使ってシリコン光導波路上で量子もつれ光と呼ばれる特殊な光子を 生成、光・電気回路を使って光の量子状態を制御、そして単一光子検出器を使って光子1個1個を正確 に検出することで、大規模な光量子技術の実現を目指します。

シリコン導波路上で量子もつれ光子生成

量子もつれ光子対は、古典力学な描像では説明することができない、特殊な性質を持った光子です。 この特殊な性質を利用すると、古典限界を超える精度での計測や、従来とは異なる原理で動作する 計算が可能となります。

本研究では、シリコンの持つ非線形光学効果を利用して、オンチップで量子もつれ光子対を生成 しています。具体的には、シリコン中での自発的四光波混合を利用して、ポンプ光の中に含まれ ている2つの光子を、シグナル・アイドラー光子へ変換し、もつれ合った光子対を生成しています(図1)。

図2は、ポンプ光強度に対する、もつれ光子対の生成レートの例です。我々のグループでは、 このもつれ合った光子対を、光量子回路の入力状態として利用し、さまざまな応用の可能性を探っています。

図1 : 自発的四光波混合
図2 : 実験結果

光量子回路の設計

シリコンフォトニクス技術を使うことで、光の量子状態を高度に制御することが可能な、光量子回路を実装することができます。

本研究では、電磁気学の知識やコンピュータシミュレーションを使って、光の量子状態を制御するための光学素子の設計を行っています。

図1は、量子もつれ光子とレーザー光を分離するためのフィルタです。2つの経路の長さが異なる、非対称なマッハツェンダー型の干渉計を利用して、 量子もつれ光子とレーザー光を分離しています(図1a)。実際に設計したフィルタの性能を評価した結果、30dB以上の消光比が得られました(図1b)。 これらの部品を集積化し、光量子演算を行うことで、従来とは異なる量子現象や、新しい量子技術の開発を進めています。

図1 : (a)周波数フィルタと(b)透過光スペクトラム

非線形干渉計の実装

非線形な光学効果を、光量子回路の中で積極的に利用すると、従来よりも高度で機能性の高い量子演算を行うことが可能となります。 これまで、バルクの光学系を使って、非線形光学効果を利用した干渉計(非線形干渉計)を実装した報告はありましたが、光集積回路 で実装した報告はありませんでした(図1)。

本研究では、これまでに培った量子シリコンフォトニクス技術を使って、量子もつれ光子生成、干渉計、フィルタなどをシリコン基板上 に集積化し、非線形干渉計を光集積回路で実装することに、世界で初めて成功しました(図1)。 また、実装した非線形干渉計の性能を評価した結果、約97%の量子干渉明瞭度が得られました(図2)。

本成果により、非線形干渉計が、大規模な光量子回路のbuilding blockの一つとして利用できる可能性が示されました。

[1] Optics Letters 44(5) 1277 - 1280 2019年3月
[2] レーザー研究 48(9) 499 - 504 2020年9月

図1 : シリコン光導波路での非線形干渉計の実装
図2 : 実験結果

研究室発足以前の研究

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