舟橋研究室
創造工学部 先端マテリアル科学コース  工学研究科 材料創造工学専攻
Funahashi Group
English page is here.
研究内容
メンバー
研究業績
主要設備
共同研究
アクセス
トップページ
その他
光と相互作用する液晶性半導体−液晶性フォトニック半導体
 半導体をフォトニクスデバイスに応用する場合、光の波長スケールの超構造の導入は非常に重要である。たとえば、半導体レーザーにおいては、微細加工により光の波長程度の周期構造を形成し、これがブラッグ分布帰還形の共振器として作用する。有機半導体においても微細加工による周期構造の導入が検討されているが、いずれもリソグラフィーを用いたトップダウン方式によるものである。それに対して、液晶材料においては、キラリティーを持つ液晶分子が自発的に光の波長スケールの周期を有する超構造を形成することが知られている。このような相はコレステリック相やブルー相が代表的であり、これらの相の周期構造を利用して、円偏光発光やレーザー発振が検討されている(図1)。しかしこれらの検討で用いられている液晶材料は絶縁体であるため、電気励起による発光デバイスに応用するのは不可能である。当研究グループでは、将来的に電気励起による円偏光発光やレーザー発振を目指し、コレステリック相を示す液晶性半導体の合成を検討している。
 従来、電子伝導が進行するのは、スメクティック相やカラムナー相のような結晶に近い構造を有する液晶相の身と考えられてきた。当研究グループでは、π共役系を拡張したオリゴチオフェン誘導体のコレステリック相において、初めて電子伝導を実現できた(図2)。分子間の軌道の重なりが大きくなることにより、分子間の電荷移動速度が向上したものと考えられる。室温付近で可視域に選択反射バンドを有するコレステリック半導体も実現できており(図3)、今後の光電子デバイスへの応用が期待される。
 
 図1 コレステリック相での光の伝搬。一方の円偏光は伝搬し、もう一方の円偏光は反射される
 
 
 図2 (a) π電子共役系を拡張した液晶性オリゴチオフェンの分子構造と分子設計の概念図 (b) キャリア移動度の温度依存性。
コレステリック相での移動度の温度依存性から、電子伝導が進行していることが分かる。
 
 
図3 (a) 可視域に反射帯を有する液晶性オリゴチオフェン混合物  (b) ガラス板に挟んで作製した液晶性薄膜 (c) 薄膜の反射スペクトル (d) 薄膜の円偏光蛍光スペクトル
 
電荷輸送に直接寄与しないキラル部位をコンパクトにする事によるキャリア輸送性の向上を狙い、1,2-propanediolをキラル部位とする二量体型オリゴチオフェン誘導体を合成した。この化合物は107℃以下でコレステリック相を示し、急冷するとガラス化する。キラル源の1,2-propanediolはR体、S体ともに入手可能であり、エナンチオマーの混合比を変えることにより反射バンドを可視域全体にわたって変化させる事ができる(図4)。 
 
図4(a) 二量体型キラルオリゴチオフェンの分子構造とR,S混合物の写真 (b) R,S混合物の透過スペクトル 
 
 この化合物のR,S混合物は、反射バンドの波長領域で円偏光発光を示す。R体過剰状態では、右巻き円偏光蛍光は得られる(図5(a))。左巻き円偏光は抑制され、バンドエッジの発光が透過してくるため、黄色に見える(図5(a) inset)。直流電界を印加するとらせん軸が基板に平行に配向するため、、直流電圧印加により円偏光発光−非偏光発光のスイッチングが可能である(図5(b))。 ホール、電子輸送性も示し、ホール、および電子の移動度は4×10-5 cm2/Vsであった。
 
図5(a) R,S混合物の円偏光発光スペクトル (b) 円偏光発光−費偏光発光のスイッチング 
 
 今後の展開
 現在、より高い傾向収率を示すオリゴp-フェニレンビニレン骨格を有する液晶性半導体の合成を進めている。非希釈条件下でのレーザー発振、電気励起による円偏光発光の検討を進める。
 
 
 参考文献
1) M. Funahashi and N. Tamaoki, “Electronic conduction in the chiral nematic phase of the oligothiophene derivative”, ChemPhysChem, 7, 1193-1197 (2006).
2) M. Funahashi and N. Tamaoki, “Effect of pretransitional organization in cholesteric phases of oligothiophene derivatives on their carrier transport characteristics”, Chem. Mater., 19, 608-617 (2007).
3) M. Funahashi and N. Tamaoki, “Organic Semiconductors with Helical Structure Based on Oligothiophene derivatives Exhibiting Chiral Nematic Phase”, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 475, 123-135 (2007).
4) 舟橋正浩、玉置信之 「螺旋構造を持つ液晶性半導体」光技術コンタクト, 2009年2月号 p.84-89
5) 舟橋正浩「液晶相での電子伝導 − スメクティック相からコレステリック相まで」液晶、2006年10月号p.359-368
6) T. Hamamoto, M. Funahashi, "Circularly polarized light emission from chiral nematic phenylterthiophene dimer exhibiting ambipolar carrier transport", J. Mater. Chem. C, 3, 6891-6900 (2015).

 
最新情報