先端ものづくり


以下の先端ものづくりのための工房について,目的,内容,基本設備,ものづくり教育との関係の観点から紹介を行います.
  RP室
  回路製作室
  MBE室



RP室
1.目的 
本工房には,紫外線硬化樹脂を用いた光造形装置を中心としたラピッドプロトタイピングシステムが設置される予定であります.ラピッドプロトタイピング(RP)とは文字通り,迅速に3次元形状の構造物を作り上げることによって,簡易な試作による製品評価や設計確認を行うためのシステムであります.現在の産業界においても,重要な技術として認識されており,従来からの試作用途のほかに,光造形法の性能の向上により,鋳型などにも用いられるようになってきています.
このような光造形装置を設置する目的は,学生に産業界におけるものづくりの現状を伝達すると同時に,これからのものづくりに重要となる3次元構造物の構築に必要な空間認識能力の向上をはかる点にあります.
2.内容 
本工房は,次の項目に挙げるように光造形装置と3次元スキャニング装置,CADシステムから構成され,次のような形での実験並びにものづくりが行えます.
・光造形装置によるラピッドプロトタイピング
3次元CADなどによって設計された図面から自動的に生成されたスライスデータによる光造形装置を用いたラピッドプロトタイピングを行います.製作した物は,3次元スキャニング装置により3次元形状としての測定が可能であります.
・3次元スキャニング装置による構造物の再構築
3次元スキャニング装置によって3次元構造物の形状をCADデータにおとすことによって,光造形装置によって構造の再構築および大きさを変えた再構成が可能であります.

次に,研究としては,以下の例が挙げられます.
・光造形材料による機械材料の開発
現在の光造形法では,モデリングや鋳型などの単なる構造を形成しているに過ぎません.したがって材料的な観点から研究を行い,強度を要求される機械材料や柔軟性を要求される弾性材料を開発することによって新たな少量多品種に適した加工法としての応用を広げることが可能となります.
・レーザースキャンの制御および手法の研究
硬化樹脂を硬化させるためのレーザーのスキャン方式や樹脂の循環方式などを研究することによって,これまでの光造形法ではできなかった積層方法や,後からの部材の追加などが可能となります.
3.基本設備 
基本構成として以下の装置を計画中です.
・光造形装置
紫外線硬化樹脂に対して数10μmの厚みをレーザーのスキャンで硬化させることによって3次元構造物を構築します.現在,検討中の装置は,約10μm程度の積層厚なので非常に滑らかな表面を持った構造物が製作可能であります.
・3次元スキャニング装置
光学的に3次元的な形状を直接取り込むことによって,複雑な曲面を持った3次元構造物に対しても,容易な再構成が可能となります.
・3次元CAD
複雑な構造を持った3次元形状を持った構造物の設計を行います.上記の装置とのインターフェースを持つことによって,データのやりとりならびに開発支援が可能となります.

4.ものづくり教育との関係
 従来の機械加工では,設計から試作品までの完成に時間がかかるとともに,目標となる構造によっては大学において設置しうる加工法の限界を超えたものがあり,学生が自分で設計したものを視認することは難しい現状がありました.その点,光造形法では,設計図面から容易に構造物を構築することができ,設計と試作品を用意に比較検討することができ,学校教育においても,ものづくりに対して多大な効果が期待できるものであります.
また,これまでの光造形装置に用いられてきた紫外線硬化樹脂は種類も少なく,上記に挙げたようなラッピトプロトタイピングへの応用が主でありましたが,現在,その樹脂に対する研究も多く行われており,次世代の構造材料としての期待も持たれています.特に,この領域においては研究として取り上げる課題が多くあり,例えば,

1)材料領域における樹脂材料の開発
2)知能機械領域におけるレーザースキャンの操作による構造形成法の開発

など,研究の題材としても優れた装置であります.

このように,光造形装置は,ものづくりに対する学生への教育装置と次世代加工機としての研究装置として優れたものであります.



回路製作室

1.目的  半導体微細加工技術は現代の高度情報化社会を支える根幹の技術であります.本工房では,半導体デバイスを実際に作製することによって,半導体デバイスの動作原理から加工原理について習得することを目的としています.
2.内容
本工房の設備はGaAs系微細加工設備であり,MBE室とリンクしてGaAs系デバイスの作製を行います.実際の実習は次の流れで行います.
(1) 作製するデバイスの仕様を決定し,フォトリソグラフィ用マスクのためのパターンを設計し,そのマスクを作製します.
(2)仕様を満たす半導体基板をMBE室で結晶成長を行なうことによって作製します.
(3)先に作製したマスクを利用し,回路製作室において半導体微細加工装置でデバイスの加工を行います.
(4)作製したデバイスの測定を行います.
3.基本設備
(1)導入予定設備
・マスクアライナ
マスクのパターンをレジストと呼ばれる紫外線感光膜に転写します.
・スピンコータ
レジストを回転塗布します.
・反応性イオンエッチング装置(RIE)
反応性ガスを利用して,半導体や有機膜をエッチングします.
・真空蒸着装置
金属膜の堆積を行う.主に電極材料を形成するために用います.
・ワイヤーボンダ
作製した半導体デバイスチップから電極を取り出すための配線を行います.

(2)導入済み設備
パッケージ型 超純水ユニット
TW−300RU
本設備は,水から不純物やパーティクルを取り除いた超純水を供給する装置です.
本装置により処理された水質は次のとおりです.

1)比抵抗 16MΩ・p以上 (25℃)
装置付属比抵抗計モニターによる

2)微粒子 50個/ml以下(0.2μm以上)
直接検鏡法による
クリーンルーム
ビニールシートの内側はHEPAフィルターによるクリーンルームとなっています. 面積はおおよそ9m^2です.
フォトリソグラフィができるようにイエロールームとしています.将来的にはここに反応性イオンエッチング装置と 蒸着装置を設置することを計画しています.この部分への入室の際は,クリーンルーム用簡易無塵服を必ず着用してください.

有機系ドラフト
これは有機系ドラフトで,人体に有毒な有機ガスを有機系スクラバにより除 害して大気に排出します. フォトリソ用のレジスト,アセトン,エタノール 等を利用する場合は,このドラフト内で作業します. 耐薬手袋,保護マスク, 前掛けは必ず着用してください.なお有機廃液は全てポリタンクに回収して ください.

無機系ドラフト
 これは無機系ドラフトで,人体に有毒な無 機系ガスを無機スクラバにより除害して大気 に排出します. 無機薬液は全てこのドラフト 内で扱います.耐薬手袋,保護マスク,前掛 けは必ず着用してください. 廃液は2次洗浄 水まで回収してください.そのまま流すことは 厳禁です.
廃液保管庫
これは廃液保管庫です.廃液は基本的には ポリタンクに2次洗浄水まで回収します. 廃液 用ポリタンクの取り扱いは,必ず保護手袋, 保護メガネ,前掛けを着用してください. ま た,ポリタンクを運ぶ前に,ふたが閉まってい ることを確認すること.廃液は,薬品毎に 別々 に回収します.他の薬品を混ぜないよう 注意してください.

4.ものづくり教育との関係
パーソナルコンピューターの普及により,多くの人がコンピューターに 接する機会が増えてきています.日本では、ゲーム関連など一部の分野を除い ては、コンピュータのソフト、ハードとも設計技術者が育っているとは言えま せん。そのため,ソフトやハードの設計技術者を育成する必要性が叫ばれてい ます. 回路作製室は一連の半導体デバイス作製の流れを経験することによって,半導 体の設計・作製に学生が興味を抱くことを期待しています.


MBE室

1.目的 
分子線エピタキシ(MBE)装置を用いてV-V族化合物半導体ヘテロ・ナノ構造の作製を行います.
 また,MBEに組み込んだ反射高速電子線回折(RHEED)を使うことにより原子が基板の表面上で結晶化する様子をその場(in-situ)観察する事もでき,これらを体験的に学習する事によりナノテクノロジーを体系的に習得した人材の育成を目的としています.

2.内容
MBE装置は,V-V族化合物半導体を超高真空中で半導体基板上にエピタキシャル成長させる装置であり,反射電子線回折により表面上の原子配列をその場観察する事により原子層単位で制御された半導体ヘテロ構造を作製することができ,超格子量子井戸高移動度トランジスタ(HEMT)等の機能素子を作製することができます. これらのV-V族化合物半導体ヘテロ・ナノ構造を対象とした以下のような研究実験をすることができます. また,これらの関係はMBEからの一方通行ではなくこれらの評価法からの情報は成長条件やサンプル構造にフィードバックをかける上で重要です.
 

(1)構造評価
超格子,ヘテロ界面構造などの構造解析実験試料の作製・提供.
断面観察:成長膜厚;SEM,TEM
表面観察:モフォロジ;AFM,ノマリスキ顕微鏡
結晶性評価:格子歪み,転位;XRD,TEM

(2)光学的評価
レーザー素子発光ダイオード量子井戸等の光学・物性実験試料の作製・提供.
フォトルミネッセンス(PL):量子井戸,不純物:光源,分光器,冷凍機
時間分解測定:励起子寿命;+パルス光源,時間分解装置
光吸収:励起準位;+波長可変光源,ダブルモノクロ分光器

(3)電気的評価
高移動度トランジスタ等の電気・電子工学実験試料の作製・提供.
ホール測定:電子・正孔移動度
シュブニコフドハース:磁場依存性
CV測定:界面準位
STM測定:電位分布の測定

(4)その場評価
エピタキシャル結晶成長における反射電子線回折像(RHEED)による原子挙動のその場観察.


3.基本設備
(1)MBE装置
VG製 V-80MkU(固体分子線源,プラズマガス線源等8系統,RHEED,QMS等装備)
(2)光学測定評価装置(予定):レーザー光源,分光装置,受光装置

4.もの作り教育との関係
(1)実験実習教育の改善
 コンピュータに代表される電子技術の発達は我々の生活を大きく変えつつありますがそれを担う機能素子・デバイス材料に直接触れる機会は減っています. 分子線エピタキシ装置の導入はこれらの設計,作製,機能物性構造評価を実践する機会を本学学生に与えるばかりではなく,見学する中高学生や地元の起業家,研究者に有形無形の影響を与えるなど波及効果は大きいものと思われます.
(2)本設備の導入により期待される効果
・超高真空装置であり操作,メンテナンス作業を通じてキーテクノロジーの一つである真空技術 について基礎から最高水準までの習得ができます.
・反射電子線回折(RHEED)を用いたその場観察による表面での拡散,再結合等の原子のミクロな挙動を実体験することで結晶成長機構の理解が得られます.
・原子層単位で構造制御された超格子,量子井戸,変調ドープ(HEMT)等の試料を作製・供給することでX線回折,フォトルミネッセンス,ホール測定等の学生実験を高度化充実化する事ができ,作製,構造評価,機能物性評価を通じてナノテクノロジーを体系的に習得できます.

用語解説
V-V族化合物半導体
ガリウムヒ素(GaAs),ガリウムナイトライド(GaN)やアルミニウムヒ素(AlAs)に代表され,V族元素(硼素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In)等)とX族原子(窒素(N),燐(P),砒素(As),アンチモン(Sb)等)が一対一で化合した物質,直接遷移型が多く発光材料に適しており,レーザー,発光ダイオードの材料として,またシリコン(Si)に比べて電子の移動度が大きいため高速トランジスタや高周波素子の材料としても重要です.
近年の窒素化合物系半導体(GaN,AlGaN,InGaN等)の作製技術の確立による青色発光素子の実用化等,現在もホットであり社会的学術的に影響力の大きい物質系です.

半導体ヘテロ構造
GaAsとAlGaAs等の2種類以上の半導体を組み合わせた構造. その接合部分に生じる特異な物理的性質を利用します. 利用例は量子井戸,超格子,高移動度トランジスタ(HEMT),発光ダイオード,半導体レーザー構造など多岐にわたります.

エピタキシャル成長
半導体などの単結晶の基板に結晶成長を行う場合,或る条件下では成長層の原子は基板の原子配列を反映して配列する. このような結晶成長をエピタキシャル成長といい,半導体ヘテロ構造を作製する上で重要な方法であります.

半導体基板
ガリウムヒ素やシリコンなどの半導体の単結晶を厚さ0.3〜0.7mm程度のウェハ状に切り出したもの. エピタキシャル成長の際には真空もしくは還元雰囲気中で加熱して表面の酸化物層を除去して清浄な表面を露出して成長を行う. 基板材料と同じ物質を成長する場合をホモエピタキシといい,異なる物質を成長する場合をヘテロエピタキシといい,基板と成長物質の格子定数(原子の間隔)がお互いに近い事が重要な要因となる.

反射電子線回折
RHEED. 分子線エピタキシ中で成長表面に10〜30keVに加速した電子線を入射角度1°程度で入射しその反射回折像を蛍光スクリーンに映し出す装置. 表面状態をその場観察によりモニターでき,また反射輝度の時間変化を観測する事により1原子層成長するごとに平坦な状態と荒れた状態を繰り返すlayer by layer成長していることが明らかとなり強度振動の周期から成長速度がその場で測定できる.

その場観察
反応(この場合は結晶成長)が起こっている状態を壊すことなく動的に観測すること. in-situ 観察とも言います.

超格子
ヘテロ構造一種.異なる物質を周期的に配列することで本来の周期(原子間距離や格子定数等)と異なる周期性を導入し新しい性質をもたらすことが期待されています. 江崎玲於奈博士が提案.

量子井戸
ヘテロ構造一種. 禁制帯幅(バンドギャップ)の小さい半導体の薄膜(厚みは10nm程度)をバンドギャップの大きな半導体でサンドイッチした構造です. 電子・正孔はバンドギャップの小さな半導体に閉じこめられ,量子力学的効果により薄膜の面内にのみ運動の自由度を持つ2次元電子・正孔となって特異な性質を持つようになります.

高移動度トランジスタ(HEMT)
ヘテロ構造一種.ヘテロ構造を利用してドープ層と伝導電子の通り道であるチャンネル層を分離した変調ドープ構造を持つトランジスタ. 分離によって伝導電子が散乱される確率が減り,高速動作が可能となりました. 現在,その高周波特性を生かして携帯電話に利用されるなどの移動体通信やIT技術を支えています.

発光ダイオード
ヘテロ構造一種. 直接遷移型の化合物半導体などにpn接合(pドープ層とnドープ層の接合)を作り発光させるデバイスです. 電球より効率が良く小型化しやすく寿命が長い特徴があります. 発光波長はおもに使用される半導体材料(の禁制帯幅)に依存して決まります.

レーザー素子
ヘテロ構造一種.発光ダイオードの発光部分の外側に光導波路構造(屈折率の高い物質を屈折率の低い物質で囲んだ構造で,光ファイバーの原理で光が閉じこめられる)を加えレーザー発振させる構造です. 導波路構造の中で特定の状態(モード)の光を増幅するため, ダイオードに比べて光の単色性,指向性が高く高出力化しやすい特徴があります.波長の短いものはレーザーディスク,CD,DVD等の記憶デバイスに,波長の長いものには光通信用の発光素子等の用途があります.

ナノテクノロジ
ナノ10^-9メートル寸法の精度で構造制御する技術です. 1ナノメートルは原子が2〜3個並んだ間隔にほぼ等しく言い換えれば原子1個1個の配列を人工的に制御して新機能,新物性をもった材料を作製する技術です.

X線回折
X線の透過回折現象を利用して格子定数,原子の間隔,超格子の周期を測定する方法.

フォトルミネッセンス
半導体試料に光を当てるとキャリア(電子・正孔)を励起する。これらの電子と正孔は再び結合し元の状態に戻るがその際に光(ルミネッセンス光:蛍光)を放出する.この光を分光解析する事により試料の禁制帯幅や量子井戸の井戸幅などが測定することができる.

ホール測定
磁場をかけた試料に磁場と垂直方向に電流を流す際に生じるホール電圧(磁場,電流方向とも垂直)を測定する事によりキャリアの種類(電子か正孔か),濃度,移動度が明らかとなる.



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