金属内包フラーレン

平成18年7月12日

●単結晶X線構造解析をすべき

最近、泉先生のホームページ(http://homepage.mac.com/fujioizumi/index.html)に、下記のニュースが書いてありましたので、抜粋させていただきます。

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2006年7月8日(土) Oh, mistake!

近着の日本結晶学会誌、3号中の赤坂 健, 永瀬 茂, "金属内包フラーレンの構造", 日本結晶学会誌, 48 (2006) 230-235. はインパクト抜群の解説でした。ここまでストレートに他の研究グループの成果を批判している例はまれです。ぜひ一読されるよう、お奨めします。

赤坂らは単結晶X線解析などの結果から、高田(現、理研)、西堀、坂田(名大)らがPhys. Rev. Lett.の論文2報に報告したSc2@C84とSc3@C82の結晶構造はいずれも間違っており、これらはそれぞれSc2C2@C82とSc3C2@C80と表現すべき金属・炭素内包フラーレンだということを明らかにしました。不完全な構造モデルのバイアスがかかった電子密度分布をMEM/リートベルト法で決定したため、回折強度への寄与が少ない内包C原子は検出できなかったということでしょう。MEM解析にMEEDを使った研究では、MEMサイクル中に総電子数が入力値から逸脱していくという致命的なバグの影響も受けたかもしれません。

さらに赤坂と永瀬は理論計算の結果から、高田、坂田、西堀らの報告したEu@C82とGd@C82の結晶構造はきわめて不安定であるばかりでなく、エネルギーの極小点にも対応しないため、これらの構造解析結果も疑わしいと指摘しています。

赤坂と永瀬は

粉末X線回折によってこれまでに数多く報告された金属内包フラーレンの構造は、再検討が望ましいかもしれない。このためにも、単結晶X線構造解析の進展が今後ますます重要になるものと思われる。

と結論しました。言い換えれば、高田、西堀、坂田らが多数報告してきた金属内包フラーレンの結晶構造を単結晶法で再解析すれば、彼らがMEM/リートベルト法で解析した結晶構造の誤りが今後さらに見つかる可能性があるというのです。

MEM/リートベルト法の能力を過信してはなりません。粉末回折の限界をわきまえ、他の物理的・化学的手法や理論計算も併用して綿密に結晶構造を解析しないと、こういう粉末構造解析の評判を落とす深刻なミスを犯しかねません。粉末回折の専門家として、残念至極です。これをもって他山の石とすべきですね。

われわれは結晶学と電子状態計算の「相分離」を憂い、両者を橋渡しするべく3D可視化システムVENUSを製作しました。粉末回折だけに頼っていたら、複雑な結晶構造の解析がしばしば困難になるということを、よく認識していたからです。電子状態計算と自ら格闘する力はもはや残っていなかったものの、仕事の方向性は誠に正しかったと自負しています。高田、西堀、坂田らの重大な過ちの露呈は、粉末回折の狭小な世界にしけ込んでいるとろくなことはない、という警鐘を鳴らしています。

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●石井研の方針として

 私たちは、単なるX線構造解析や単なる電子状態計算にとどまらず、両者の互いの意味を尊重し合いつつ、両方を併用して研究を進めなければなりません。また、空間電子密度を測定するX線構造解析と、空間電子波動関数を導き出す電子状態計算とは、切っても切り離すことが出来ません。これらは、泉先生や坂根先生が強く提言している通りです。