舟橋研究室
 ポリビニルカルバゾールなどの,π共役部位を側鎖に導入したペンダント型高分子半導体は,溶液プロセスによる製膜が容易なため,電子写真感光体や電界発光素子に利用されている。しかし,分子凝集構造はアモルファス構造であるため,キャリア移動度は低い。液晶性を利用して,高分子に結晶的な分子配向秩序を導入し,特性を改善する試みが古くより検討されているが,良好な結果を与えた例はなかった。筆者らは主鎖として柔軟なポリシロキサンを選び,側鎖に,ホール輸送性に優れるターチオフェン部位を導入した側鎖型液晶性高分子(図1(a))を合成した。
 これらの高分子は室温でスメクティックE 相を示し,- 50 ℃まで冷却しても結晶化しない。X線回折では、高角度側に、層内にrectangular格子の存在を示唆する回折ピークが現れた(図1(b))。X 線回折より,側鎖導入率50 %の高分子の液晶相では,ターチオフェン部位が凝集して形成された長距離秩序を有する結晶的な層と液体的な運動性を有するポリシロキサン主鎖が凝集した柔軟な層,すなわち二つのサブレイヤーが交互に積層した構造をとっており,電気伝導に関与する結晶的なサブレイヤーに歪がかかっても,液体的なサブレイヤーのために歪が緩和され,電気伝導を阻害する構造欠陥が形成されにくいものと考えられる。偏光顕微鏡観察では,数百μmの大きなドメインが形成され,比較的容易に均一性に優れた薄膜を作製することができた(図1(c))。
 Time-of-Flight 法により、これらの側鎖型液晶性高分子の室温でのキャリア移動度を測定した。ペンダント型高分子半導体での電荷輸送は,側鎖のπ軌道の重なりを介した電荷移動によって進行するため,通常のアモルファス材料では,π共役部位の密度の高いほうのキャリア移動度が高くなる。しかし,筆者らが合成した側鎖型液晶性高分子では,ターチオフェン側鎖の導入率が50 %である高分子 のホール移動度が1×10–2 cm2/Vsで,側鎖の導入率が100 %である高分子 よりも2倍以上高かった。また,この値はポリビニルカルバゾールのようなペンダント型高分子半導体に比べて4 桁高い(図1(d))。

 
 
図1 (a) 側鎖型液晶性高分子の構造 (b) 高分子の室温での偏光顕微鏡写真 (c) 側鎖導入率50%の高分子の室温での
X線回折パターン (d) 側鎖導入率50%の高分子の室温でのホールに対する過渡光電流波形
 
本研究を進めるにあたり、東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻加藤隆史教授のご指導を受けました。また、大学院生(当時)の松井絢様にお世話になりました。
この研究成果は現在取り組んでいる側鎖末端にオリゴシロキサン鎖を導入したナノ相分離型電子機能性液晶の出発点になったものです。
 
 
参考文献
1. A. Matsui, M. Funahashi*, T. Tsuji, T. Kato*, “Hole Transport in Liquid-Crystalline Polymers with a Polysiloxane Backbone and a
Phenylnaphthalene Moiety in the Side Chain”, Chem. Eur. J. 16, 13465-13472 (2010).

2. 舟橋正浩、加藤隆史「ナノ相分離を利用した液晶性π共役分子組織体の電子機能」高分子、2011年60巻7月号p.463-464
 
創造工学部 先端マテリアル科学コース  工学研究科 材料創造工学専攻
Funahashi Group
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ナノ相分離を利用した側鎖型液晶性高分子の電荷輸送の効率化
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