授業用のページ

令和5年5月2日 更新

 このページでは、授業で話題として取り上げたリンクやアプリケーションについて説明します。

●微分積分、無機化学、量子力学

PHETシミュレーション
半導体/電子デバイス物理

Wave on a String (HTML 5)
Normal Modes(HTML5)
Making Waves(HTML5)
フックの法則(HTML 5)
Color Vision (HTML 5)
重力と軌道(HTML5)
波の干渉(HTML5)
黒体放射(HTML5)
デビッソン・ガーマー法:電子回折(Java)
クーロンの法則(HTML5)
Build an Atom (HTML5)
Molecule Shapes: Basics (HTML5)
分子の形(HTML5)
分子と光(HTML5)
温室効果(HTML5)
分子の分極(HTML5)
Beer's Law Lab (HTML5)

●その他

Mercuryのダウンロードサイト(www.ccdc.cam.ac.uk)


●学生さんからの質問

 物理化学で学生さんから頂いた質問と、それについての回答を紹介いたします。


質問:例えば窒素分子の1S軌道同士のσ軌道は2つの原子軌道が1つになってできるのに結合性軌道と反結合性軌道の2つの軌道がどうして同時に存在するのですか?それとも結合性軌道と反結合性軌道が交互に存在するのですか?

回答:答えは「同時に存在できる」です。その前に、「なぜ二つの軌道が同時に存在するのか(例えばσとσ*)」を理解しなければなりません。これは、線形代数学的、量子力学的に言うと、「直交」という現象です。通常、同じ時間に同じ場所に、二人の人間が同時に立つ事が出来ません。ぶつかってしまうからです。一方、分子軌道(波動関数)は、いくつかの直交基底関数あるいはそれらの足し合わせで考える事が出来ます。具体的に言うと、σ軌道とσ*軌道は直交しているため、同時に同じ位置には実は存在していないのです。その証拠に、この二つの関数の積を取り、マイナス無限大からプラス無限大まで空間積分すればゼロになります。この「直交」については、例えば線形代数や量子力学の教科書を図書館から借りてきて、読んでみてください。

 次に、窒素分子の1s軌道同士からなるσとσ*に限って言えば、これらは実はほとんど重なっていません。理由は、それよりも外側にある2s軌道や2p軌道同士が邪魔をしてしまい、窒素原子間距離が1.098オングストロームまでしか近づく事が出来ないからです。一方、1s軌道の半径は、最も大きい水素の場合でもボーア半径(0.529オングストローム)程度ですが、窒素になるともっと内側に縮んでしまいますので、実際には窒素の1s同士はほとんど重なっていないと考えられます。当然、2s軌道同士や2p軌道同士は、強固に共有結合しています。


質問:教科書(現代の無機化学:ISBN4-7827-0273-6)P37の下のほうに「2p軌道の重なりで生じるσ軌道とπ軌道のエネルギー順がO2とF2では図2.5と同じであるが、Li2〜N2では逆転している。これはLiからNまでは2s軌道と2p軌道のエネルギー差が小さいために、s軌道はp軌道性をp軌道はs軌道性を帯びているからである」と書いてありますが、どうしてLi2〜N2ではσ*軌道とπ*軌道は逆転しないのですか?

回答:答えは、それらの「分裂幅」の違いにあります。一般には、σ-σ*分裂幅の方が大きく、π-π*分裂幅の方が小さいために、並び方としては、エネルギーの低い方から(σ)→(二つのπ)→(二つのπ*)→(σ*)(後周期型)となります。これが原則で、O2やF2はこれらの原則に従っています。一方、Li2からN2では核電荷が小さく、π-π*分裂幅が大きくなっています。そのため、N2とO2の境目のところで順番が逆転し、(二つのπ)→(σ)→(二つのπ*)→(σ*)(前周期型)となります。ですから、σとπが単独で逆転しているのではなく、分裂幅の違いにより、結果的に逆転してしまっている、と理解してください。


質問:酸素が配位した六配位ヘモグロビン(Fe(por)MeIm O2)がd2sp3混成軌道で、配位子場分裂によってFeII d6スピンがロースピン(S=0)に落ち込むことは分かります。しかし、酸素を離した五配位ヘモグロビン(Fe(por)MeIm)は、なぜハイスピン(S=2)になるのですか?鉄原子が平面から飛び出て、dsp3(三方両錐)になっているのでしょうか?または、FeIIそのものと考えるのでしょうか?

回答:デオキシヘモグロビン(酸素を離したヘモグロビン)では、ポルフィリン平面の4つの窒素とMeIm(メチルイミダゾル)が配位しているため五配位です。しかし、六配位の時と異なり、配位子場分裂が小さく、ハイスピンになります。理由は、電子間に強い反発が起きるために、少々のエネルギーバリヤは超えてしまいます。一方六配位の時は、中心鉄原子の2つのd軌道(dz2とdx2-y2)軌道は軸方向と全く同じ、ほかの3つの軌道(dxyとdyzとdzx)は45度傾いており、はっきりとエネルギーの有利不利に分かれます。そのため八面体六配位の場合の配位子場分裂は非常に大きく、電子間反発程度では超えられないためにロースピンに落ち込みます。


質問:CrI以外にも、d5系ならば五重結合になるのでしょうか?

回答:その通りです。CrI以外にも、例えばMoIやWIなどは同じ周期d5系なので、五重結合を作る可能性があります。ただし、五重結合を現実のものとするためには、それ以外にも様々な問題点をクリアしなければなりません。まず、合成された錯体が安定でなければなりません。そのためには比較的かさ高い配位子で二核金属の周りが保護されている必要があります。次に、配位能力が比較的弱い配位子を用いなければなりません。またそのときの配位角度も、d軌道の空間分布とずれている必要があります。なぜなら、配位能力が強く、d軌道の空間分布と一致していると、金属のd軌道が配位子の方向に広く張り出してしまい、金属-金属間結合に使われる正味のd電子数が減少してしまうため、結合次数が下がってしまうためです。五重結合Cr(Ar')ダイマー(Science, 310, 844 (2005))は、これらの条件を全て満たしています。


質問:trans-[Ma2b2]の構造は一通りしかないのですか?

回答:そうです。下に例を示します。これらはどちらもtrans-[CoIIICl2(NH3)4]+です。元々同じ構造の分子です。ちょっと回転させてみただけで、同じものです。